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暑寒別岳 雨竜ルート撤退記 -藪漕ぎの末の道迷いと熊との遭遇-

2021年7月10日(土)の山行記録。

 

北海道・増毛山地の主峰・暑寒別岳(標高1,492m)。

この山を、「北海道の尾瀬」と呼ばれる雨竜沼湿原を楽しめる雨竜ルートで歩いてみようと思い立ち、雨竜町へ向かいました。

 

退勤後、仮眠を取り深夜のウキウキドライブへ。日が昇りはじめた田園広がる空知平野のなかを走っていると、百姓の血が滾りだし一層活気づいてきました。

 

5時過ぎに登山口に当たる南暑寒荘に到着。山開きの日に関わらず人出はまだ少なめ。

天気予報は曇り時々晴れ。一抹の不安を感じつつ、準備を済ませ出発。

すたころさっさ。

 

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湿原までは約4km、結構険しい道のり。

途中、赤い吊り橋や白竜の滝があっていい感じ。

 

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1時間ほどで湿原入口に。

雨竜沼湿原は南暑寒岳の850m台地に広がる、北海道で一番大きな山岳高層湿原。

 

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木道が整備されている


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湿原にはペンケペタン川が蛇行しながら流れ、大小多数の池塘が点在。そして湿原植物と昆虫類が特有の生態系を生み出しています。

 

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この美しさと広さと静かさには度肝を抜かれました。

湿原にそよぐ風の心地よさには生を実感です。

 

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湿原を30分位で抜け、湿原を一望できる展望台へ。

このあたりからガスがかかりはじめ、この上から展望は期待できない状況。

 

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まずは南暑寒岳を目指し歩を進めると、ある異様な光景に肝が冷えてきました。

誇張なく20m間隔にある熊糞と掘り返しの形跡。

熊のライブ会場かってくらい凄まじい量。

バックパックには二つの熊鈴、口にはホイッスルを咥え、遭遇しないよう音を響かせながらの進行。

 

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歩きはじめて2時間半ほどで南暑寒岳のピークを踏みます。風が冷たく、展望なんてありゃしません。暑寒別岳への道はここから鞍部まで急降下します。

が、問題はここから。

想像を絶する藪漕ぎの試練。背丈ほどにもなる笹薮が覆い茂る。

リサーチした情報元が古かったのか、こんな状況知らされてなかったです...。自分の怠慢に他ならないですが。

 

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本格的な藪漕ぎは経験がなく、足元が見えず滑って転んで、脛やお尻を強打して体力と精神を相当持ってかれました。

そして致命的なミスを犯します。

チェックポイントの「最低コル」手前で道を見失い、沢に入り込んでしまいました。歩いてきた道を引き返そうにも、藪が深く無事に戻れるか確信が持てず、軽くパニックです。ガスで視界が見通せなかったのも原因の一つだと思います。

 

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L字に曲がる箇所が「最低コル」。その手前で道を外れたのがわかる。

ここで冷静さを取り戻すべく、休憩を取り、その後慎重に正規ルート復帰に動き出しました。藪をかき分けて進むと、背が低いところに当たり、何とか復帰が叶いました。

この間、藪で上半身がズタボロになり、スマホの位置情報とドリンクのボトルは失うし、こむら返りはするしで、泣きっ面に蜂が極まりました。

道をロストしたのは30分ほどで時間的余裕はあったが、「帰れ」という神の思し召しだと思うことにして撤退を決意。

 

意気消沈のなか南暑寒岳に登り返し、そして下山をはじめました。

この辺まで来ると登山客と会うようになり、安堵したのを覚えています。

しかし、標高1,000m付近で初老の男性が立ち止まっており、藪の方向を指差して話しかけてきました。

「熊いるよ。あの黒いの」、指を指した方向を覗くと、確かに薮のなか20~30m先に黒い物体が。熊の判別はつかなかったですが、長居したくなかったので早々にその場を離れることに。

 

小走りで進んでいると、今度は男性4人組が立ち止まっていました。

どうしたものかと声をかけると、この先に熊がいるとのこと。

いやはや困ったものです。

熊がいなくなるのを待ち、団体の最後尾につかせてもらって歩き出しました。

 

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この先でクマと鉢合わせた

しかし、この後も2度3度、ルート上に熊がいるのを目撃。2mほどの個体。

その都度、ゆっくり後退してはやり過ごし、警戒しながら進むという生身のサファリパーク状態。

急に灌木が揺れ、うめき声が聞こえてきたときは心底ビビった。

 

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警戒しながら進む

無事湿原に到着。全員で喜びを分かち合いました。

後にも先にも、これほどまで熊の気配に怯えながらの山行はないはず。

暑寒別岳撤退を決意していなかったら、一人下山中で熊に遭遇したかもしれず、屈強な男性グループと行動できたのは本当に幸運でした。感謝です。

 

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一進一退の攻防の末、湿原に到着

 

湿原一帯は朝と比べようもないくらい人が増え、散策を楽しんでいました。
この景観を体験するだけでも来る価値があります。

道外にはそれほど知られていない名所ですが、北海道観光を考えている方には来訪を強くお勧めします。

 

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下山中、熊出現を聞きつけた道警が出動。手持ちの情報を提供しました。

お勤めご苦労様です。

下山後、雨竜町内の銭湯で汗と汚れを洗い流し、2時間しっかり仮眠を取った後、帰路に着きました。

藪と熊、二度とこのルートから暑寒別岳に行こうとは思いません。

 

 

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熊出没の件は雨竜町のHPにも掲載。南暑寒岳への登山は自粛を要請